クインシー・ジョーンズとマイケル・ジャクソン -2- からの続きです。

アルバム「スリラー」の仕事を終えて、クインシーは、アルバム「BAD」までの間も”ETストーリーブック”、”ウィ・アー・ザ・ワールド”、”カラー・パープル”と歴史的なプロジェクトをこなしてゆきました。

さて、82年の「スリラー」から87年の「BAD」までの間には5年の歳月が流れた訳ですが、その間、何があったかを思い浮かべますと・・・

ニュー・エディション”Cool It Now

「スリラー」発売の翌83年に、ジャクソン5の再来といわれたニュー・エディションがデビュー(デビュー曲の”Candy Girl“は、もろ”ABC”です)、本当に全員素質があり、新しいスターの誕生を予感しました。
そして「BAD」発売の前年の86年には、ジャネット・ジャクソンの3枚目のアルバム「コントロール」が、プリンス一派だったジャム&ルイスのプロデュースの下でついに大ブレイクしました。

ジャネット・ジャクソン”When I Think Of You

音楽シーンも大きく様変わりしました。楽器と録音技術は完全にデジタル中心となり、ベースやドラムの音などは、スタジオ・プレイではなくシンセサイザーの事前プログラミングによって作られる事が多くなりました。
ダンス音楽の主流もメロディアスなソウル・ミュージックから電子音中心のユーロビートとか、ハウス・ミュージックに変わってゆきました。日本は高度成長期からバブルに突入し、マハラジャのようなゴージャスなディスコがどんどん作られてゆきました。
そんな背景で「BAD」はリリースされた訳ですが、

マイケル・ジャクソン”BAD
ジェフリー・ダニエルズにポップン・タコ・・・バックダンサーにも、魅せられました。

時代は流れて、アルバム「BAD」も前2作から大きく音楽性が変わりました。
マイケル自身の作曲が11曲中9曲(オフザ3曲⇒スリラー4曲)となり、ロッド・テンパートン(オフザ3曲⇒スリラー3曲)の名前が完全にクレジットから消えました。
クインシー独特の、色気のある音色はほとんど姿を消し、ストレートに体に伝わるデジタル・サウンドが中心になりました。また、ほぼすべてのシングルに、”スリラー”タイプのショートフィルムが標準装備となりました。アルバムセールスはスリラーに及ばないものの、全米ポップチャート1位を5曲が獲得する快挙を成し遂げた要因に、シングル・カットの都度、世界の注目を集めるショートフィルムの威力は大きかったと思います。

「BAD」の音楽性は、クインシーというよりはマイケル・ジャクソンが生み出した世界観であり、「キング・オブ・ポップ」の称号のベースだったと思います。

ここで、クインシー・ジョーンズとマイケル・ジャクソンの蜜月時代は終わりな訳で、色々の意見を耳にしますが、僕は明らかに発展的解消であったと思っています。
前人未踏の金字塔を樹立して、数字の記録に負けない価値を創造する為には、これ以上続ける事は互いの為にならなかったと思います。

89年、クインシーは当時の活動の集大成的作品である「バック・オン・ザ・ブロック」を発表しました。
ネイティブなアフリカン・サウンドからジャズ、ゴスペル、R&B、ヒップホップといった古今東西の黒人音楽をブレンドしたそのサウンドは、まさに驚愕でした。

初めて聴いた時には、オープニングのクインシーと息子のQDⅢのラップが入る幻想的なジングルに、違う世界に連れて行かれるような期待感であふれました。

このサウンドのスパイスとしてクインシーが目をつけ、表舞台に復活させたオールドスクール・ラッパーたち、グランドマスター・メリー・メル、アイスT、クール・モー・ディー、ビッグ・ダディ・ケイン。

Back On The Block

ジャズ界の盟友、レイ・チャールズ、マイルス・ディヴィス、ハービー・ハンコック、サラ・ヴォーン、エラ・フィッツジェラルド。

I’ll Be Good To You“feat.レイ・チャールズ&チャカ・カーン

過去プロデュースしたR&Bアーティスト、バリー・ホワイト、ジョージ・ベンソン、ブラザーズ・ジョンソン、チャカ・カーン。

The Secret Garden“feat.バリー・ホワイト

新旧秘蔵っ子、アル・ジャロウ、ジェイムズ・イングラム、サイーダ・ギャレット、TAKE6、そして当時13歳のテヴィン・キャンベル。

Tomorrow“feat.テヴィン・キャンベル
クインシーは、この少年に次代のマイケルを見たといいます。

これらのアーティストが分け隔てなく、またあらゆるユニットで繰り広げる音楽は、クインシーにしか出来ない、ブラック・ミュージックの要素全てを使ったアンサンブルでした。

「バック・オン・ザ・ブロック」発売の前年の88年、Guy(ガイ)というグループが誕生しました。
その音楽性には”Back On The Block“に共通したものが感じられました。
彼らの跳ねるように軽快なR&Bサウンドはたちまちクラブシーンで大流行しました。

Guy”Groove Me

このムーヴメントは、のちにニュー・ジャック・スウィングと呼ばれます。

<続く>

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