ロッド・テンパートンは、マイケル・ジャクソンのアルバム「オフ・ザ・ウォール」に”ロック・ウィズ・ユー”、”オフ・ザ・ウォール”、”ディスコで燃えて(Burn The Disco Out)”の3曲(+後発発表曲として”サンセット・ドライバー”)、アルバム「スリラー」に”スリラー”、”ベイビー・ビー・マイン”、”レデイン・マイ・ライフ”の3曲(+後発発表曲として”ガット・ザ・ホット”)を提供しました。
クインシー・ジョーンズは、「ボディ・ヒート」以降、上記2作と「愛のコリーダ」周辺の仕事で、相当な比重を、ロッド・テンパートンのソングライティングに依存していたと思います。殊に「スリラー」では33曲のデモを作成したという事ですから驚きです。 
むしろ全部聴きたいくらいです。
ところで、このロッド・テンパートンって、一体何者なのでしょうか?どこの国の人で、どんな人種で、どんなバックグラウンドなんだろうか。どんな顔なんだろうか・・・・・ファンク・グループのヒートウェイヴのメンバーであったという事以外、長年そんな疑問を解明する事が出来ませんでした。
それでは、この「ヒートウェイヴ」とは、どんなバンドだったのでしょうか。
ヒートウェイヴ”ブギー・ナイツ
この怪しい雰囲気を醸し出しているバンドが、ヒートウェイヴです。
そしてキーボードを弾いて右端にたまに写る、ややヅラ気味の顔色の悪い人がロッド・テンパートンですロッド・テンパートンは、ヒートウェイヴのほとんどの曲を書いていました。
ヒートウェイヴはエピック傘下のGTOというレーベルから、76年にイギリスでデビューしました。
代表曲は”ブギー・ナイツ”(米ポップチャート最高2位)、”グルーヴライン”(同7位)。爆発的ではないですが、70年代後半から80年代前半のソウル・ミュージックに欠かせない曲ではあったと思います。     
ライナーノーツを読んで、ヒートウェイヴは、ワイルダー兄弟という米国人を中心に、ドイツで結成されたバンドで、米国人、スペイン人、チェコスロバキア人、それに英国白人のロッド・テンパートンという多国籍・人種混成のバンドであることを知りました。米国発の黒人R&Bバンドと一味ちがう、その独特の世界観は、こんなバックグラウンドから来るものなのかと思わず納得しました。
唐突ですが、結婚式の定番ソング”オールウェイズ“という曲はご存知でしょうか。”てんとう虫のサンバ“の英語版みたいな歌です。これはアトランティック・スターというR&Bバンドが歌っていましたね。
これと似たようなタイプの曲で、世界中の多くの人が知っていて口ずさんでしまうような、でもそれより少し切なくブルージーな曲を、ヒートウェイヴは持っています。
この曲は、デビュー直前に交通事故で非業の急死を遂げたメンバーのギタリスト、ジェシー・ウィッテンに捧げる曲でした。
いつでも永遠に、どんな時でも一緒にいる。
なぜなら僕らは、決して変わらない
一生の愛で結ばれているから。
だから明日もきっと一緒。
I’ll always love you forever
ロッド・テンパートンは、グルーヴィーなディスコ・チューンだけでなく、こんなスウィートな曲も作れるのですね。僕はこのメロディは何度も耳にした事がありましたが、長い間、これをあのヒートウェイヴが歌っているものとは思っていませんでした。そしてそれを知った時、本当に偉大に思いました。
実はこのバンドにはカルト的な悲運が付きまとい、その後もベースのマリオ・マンティースが暴漢に刺され再起不能になり、創始メンバーでヴォーカルのジョニー・ワイルダーが交通事故で半身不随になってしまっています。
そしてメジャー・デビューからわずか2年あまりの78年に、今度はロッド・テンパートンも脱退する事になります。そのきっかけは、「マイケル・ジャクソンの新アルバムに曲を書いて欲しい」というクインシー・ジョーンズからの電話でした。
クインシーとは、このような作品も生み出しました。

ジョージ・ベンソン”ギブ・ミー・ザ・ナイト”

ルーファス&チャカ・カーン”ドゥ・ユー・ラブ・ワット・ユー・フィール” 

パティ・オースティン”ラザマダズ” 

クインシーはロッド・テンパートンを、「クラシックの作曲家の資質を持ち、旋律や対位法に優れた才能を発揮するソングライターの最高峰」と評しており、仕事振りにも「常に完璧に準備し、戯言は一切口にしない。戦場で誰もがそばにいてほしいと願う強者のような存在だった」と手放しに絶賛しています(「クインシー・ジョーンズ自叙伝」より)。

クインシーとの共同作業で、ロッド・テンパートンの作品はヒートウェイヴ時代よりシンプルにポップなディスコ・ビートにアレンジされた感じがしますが、今聞くと、ヒートウェイヴの曲はどの曲もメロディアスでグルーヴィーな名曲ばかりだとつくづく思います。
ロッド・テンパートンが今、何をやっているかは知りません。
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